社会人が公務員試験に挑戦する際、最初の壁となるのが「筆記試験」です。範囲が膨大であるため、闇雲に学習を始めると挫折する原因となります。
特に働きながら合格を目指す場合、すべての科目を完璧に網羅することは物理的に不可能です。試験の構造を理解し、「どのような問題が出るのか」を把握した上での戦略が合否を分けます。
本記事では、公務員試験の筆記試験の全体像と、具体的な問題例を交えて徹底解剖します。
この記事を書いた人

公務員のライト専任講師
よこみぞ先生(横溝涼)

筆記試験の3つの柱

公務員試験の筆記試験は、大きく分けて以下の3種類で構成されます。受験する自治体や区分(一般枠か経験者枠か)によって組み合わせが異なります。
- 教養試験(基礎能力試験):ほぼ全ての試験で課される必須科目
- 専門試験:法律や経済など、職種に応じた専門知識を問う科目
- 論文試験:課題に対する論理的な思考力や表現力を問う科目
近年、社会人経験者採用においては「専門試験」を課さず、「教養試験+論文試験」のみ、あるいは民間企業の採用で使われる「SPI3」などで実施する自治体が増加しています。
教養試験(基礎能力試験)の正体と問題例

教養試験は、公務員として必要な基礎的な知能と知識を測る試験です。内容は大きく「知能分野」と「知識分野」に二分されます。
① 知能分野(重要度:特大)
全体の出題数の約5割近くを占める最重要パートです。暗記ではなく、思考力や処理能力が問われます。
- 数的処理:判断推理、数的推理、資料解釈などで構成されます。公務員試験において最も配点が高く、合否を決定づける科目です。
ある学校の生徒会役員の選挙が行われた。A、B、Cの3人の候補者のうち、生徒会役員を生徒全員の投票によって決定する。今、次のア~エのことが分かっているとき、確実にいえるのはどれか。
ア 生徒は、最大2人まで選んで投票することができた。
イ 生徒は、少なくとも1人に投票した。
ウ A又はBに投票した生徒はCには投票しなかった。
エ Bに投票しなかった生徒はCに投票した。
<ポイント> このような「条件から正解を導き出すパズル」が出題されます。高度な数学知識は不要ですが、図を描いて情報を整理する論理的思考力が求められます。教養試験の対策時間の半分以上はこの科目の習得に費やすことになります。
- 文章理解:現代文と英文(一部自治体で古文)の読解問題です。筆者の主張を問う「要旨把握」や、本文の内容と合致する選択肢を選ぶ「内容合致」、バラバラになった文章を正しい順序に並べ替える「文章整序」などが出題されます。特に英文は、専門的な単語の暗記よりも「いかに早く正確に大意を掴むか」という速読力が求められます。毎日1題ずつ解くなど、長文に対する抵抗感をなくす継続的な訓練が有効です。
② 知識分野(重要度:中〜小)
高校までに学習した科目の総復習ですが、「時事」だけは別格の重要度を持ちます。
- 時事問題(重要度:大) 直近1〜2年のニュース、法改正、白書(厚生労働白書や環境白書など)から出題されます。単独で複数問出題されるだけでなく、論文試験や面接試験のネタとしても直結するため、最もコストパフォーマンスの高い科目です。
昨年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」に関するA~Dの記述のうち、妥当なものを選んだ組合せはどれか。
A 1世帯当たり所得税3万円と住民税1万円の定額減税を実施し、また、住民税非課税世帯には1人当たり7万円を給付するとした。
B 企業や大学の宇宙分野の技術開発を支援するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に10年間の「宇宙戦略基金」を設置し、1兆円規模を支援するとした。
C 海外で研究開発した特許権などの知的財産から生じる所得に対して優遇する「イノベーションボックス税制」を創設するとした。
D 物価高対策のため、ガソリンの価格や電気・ガス料金の補助は2024年4月末まで延長し、電気・ガス料金の補助は同年5月に激変緩和の幅を縮小するとした。
<ポイント> 新聞やニュースで報じられる「数字」や「傾向」が問われます。GDPの成長率、合計特殊出生率、G7サミットの合意内容など、主要なトピックは必ず押さえる必要があります。
- 社会科学:政治、経済、法律、社会事情。公務員の実務に直結するため出題数が多く、学習コスパが良い分野です。
日本国憲法の基本的人権に関するA~Dの条文を、平等権・社会権・請求権に分類した場合に、社会権に該当するものとして、妥当なものを選んだ組合せはどれか。
A すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
B すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
C 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
D 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
<ポイント> 高校の「政治・経済」レベルの知識が問われます。用語の暗記だけでなく、制度の仕組みを正しく理解しているかが問われます。
- 人文科学:日本史、世界史、地理、思想、文学・芸術などで構成されます。高校の授業で触れた内容が中心ですが、範囲が非常に膨大です。すべてを網羅しようとせず、「日本史の近現代」や「地理の各国の地誌」など、出題頻度の高い分野に絞って学習するのが効率的です。
- 自然科学:数学、物理、化学、生物、地学で構成されます。文系出身の社会人は理系科目に苦手意識を持つことが多いですが、すべてを「捨て科目」にするのは危険です。「生物(細胞や生態系など)」や「地学(気象や地震など)」といった、計算が少なく暗記で対応しやすい科目を確実な得点源にする戦略がおすすめです。

どのような試験でも数的処理は出題されますので、まずは数的処理を優先的に学習を始めてみて下さい。
専門試験の概要と主要科目

「専門試験」は、大卒程度の「一般枠」や、一部の「社会人経験者枠」で課される試験です。職種によって異なりますが、事務系(行政職)の場合、以下の3系統から出題されます。学習量は教養試験を遥かに凌駕するため、早期の対策と戦略的な科目選択が不可欠です。
① 法律系科目(重要度:特大)
公務員実務の根幹となる知識です。特に以下の3科目は「主要3法」と呼ばれ、出題数が多く、合否に直結します。
- 憲法:国の最高法規です。「人権(表現の自由など)」と「統治(国会・内閣・裁判所)」の2分野からなります。判例(裁判所の判断)の知識が問われることが多く、条文も少ないため、初学者でも比較的取り組みやすい科目です。
- 民法:私達の生活に最も身近な法律です。「総則・物権(所有権など)」と「債権・親族・相続(契約や家族関係)」に分かれます。条文数が1000を超え、学習範囲が膨大であるため、最優先で着手すべき科目です。
- 行政法:行政活動のルールを定めた法律の総称です(行政手続法、国家賠償法など)。公務員として働く上で必須の知識であり、過去問の焼き直し(類似問題)が多いため、勉強すればするほど得点が伸びる「ドル箱科目」です。
日本国憲法に規定する違憲審査権に関する記述として、最高裁判所の判例に照らして、妥当なのはどれか。
② 経済系科目(重要度:大)
文系出身者、特に法学部や文学部出身者が最も苦戦する分野ですが、論理的な積み上げ科目であるため、一度理解すれば安定した得点源になります。
- ミクロ経済学:家計や企業など、個々の経済主体の行動を分析します。需要と供給のグラフや計算問題が頻出です。
- マクロ経済学:国全体の経済活動(GDP、インフレ、失業率など)を分析します。ミクロ経済学の知識が基礎となるため、セットで学習します。
- 財政学:国の予算や税金の仕組み、経済政策の効果を学びます。経済理論と時事データ(最新の予算額など)の両面から出題されます。
ある国の経済において、マクロ経済モデルが次のように表されているとする。
Y=C+I+G
C=0.8(Y-T)+20
I=20
G=20
T=45
このモデルにおいて、完全雇用国民所得が140であるとき、完全雇用を実現するために必要となる減税の大きさとして、妥当なのはどれか。
③ 行政系・その他科目(重要度:中)
暗記中心の科目群です。法律・経済に比べて短期間での仕上げが可能です。
- 政治学・行政学:政治の仕組みや行政の歴史、理論を学びます。
- 社会学・国際関係:社会構造や各国の外交史などを学びます。
【学習の鉄則】 全科目を均等に勉強してはいけません。「憲法・民法・行政法」と「ミクロ・マクロ経済学」の主要5科目を固めることが最優先です。これらで全体の6〜7割の得点を確保し、残りの科目で補完するのが王道の戦略です。

専門科目は科目選択する機会が多いので、どの科目を使っていくのかを併願先を含めた受験先から決定するようにしてください。
論文試験の3つの形式と重要性

社会人採用において、筆記試験(択一式)と同等、あるいはそれ以上に重視されるのが論文試験です。形式は大きく「課題式論文」「作文式」「職務経験論文」の3つに分類されます。それぞれの特徴を把握し、適切な準備を行う必要があります。
① 課題式論文(行政課題型)
最も一般的な形式です。少子高齢化、防災、環境問題など、現代社会が抱える課題に対し、行政としてどう取り組むべきかを論じます。
- 「空き家問題の現状を踏まえ、本市としてどのような対策を講じるべきか、あなたの考えを述べなさい」
- 「近年多発する自然災害に対し、自治体として取り組むべき防災・減災対策について述べなさい」
客観的なデータや事実に基づき、「現状分析→課題抽出→解決策の提示」という論理構成で書くことが求められます。
② 作文式
自身の考えや価値観を問う形式です。課題式論文に比べてテーマが抽象的で、警察官・消防官試験や、一部の市役所試験で見られます。
- 「公務員として働く上で大切にしたいこと」
- 「これまでの人生で最も努力したこと」
行政知識よりも、人柄や意欲、倫理観が評価の対象となります。抽象的なテーマであっても、具体的なエピソードを交えて説得力を持たせることが重要です。
③ 職務経験論文
社会人経験者採用(経験者枠)で頻出の形式です。これまでの業務経験を具体的に記述し、それを志望先の自治体でどう活かせるかを論じます。
- 「これまでの職務経験で挙げた実績を具体的に述べ、その経験を本市の行政運営にどのように活かせるか述べなさい」
- 「チームで業務を遂行する上で直面した困難と、それをどのように乗り越えたか述べなさい」
単なる「自分史」や「自慢話」になってはいけません。「再現性(過去の成功を公務の現場でも再現できるか)」と「貢献可能性(即戦力としてどう役立つか)」をアピールすることが合格への鍵となります。

論文はただ書くだけでなく、実際に人に読んでもらい、客観的な視点から意見をもらうようにしてみてください。
民間試験(SPI3・SCOA)の導入

近年、公務員独自の試験(教養試験)を廃止し、民間企業の採用で一般的な「SPI3」や「SCOA」を導入する自治体が急増しています。
- SPI3:言語(国語)と非言語(数学)の基礎能力検査。性格検査も重視されます。
- SCOA:120問を60分で解くなど、スピードと正確性が求められる事務能力検査。
これらは従来の公務員試験に比べて対策が容易であるため、民間企業からの転職者にとっては大きなチャンスです。ただし、ハードルが下がる分、高得点勝負となり倍率は高くなる傾向にあります。
初心者がとるべき学習戦略

働きながら限られた時間で合格ライン(一般的に6割程度)を突破するためには、以下の優先順位で学習を進めます。
- 数的処理の攻略:毎日必ず触れ、解法パターンを身体に染み込ませます。ここを苦手のままにしないようにしましょう。
- 時事対策:公務員試験専用の参考書で内容をおさえます。論文試験や面接対策にも直結するため、優先的に学習します。
- 社会科学の習得:政治や経済は出題されることも多く、専門科目等にもつながるため、時事の次にやっていきます。
- その他知識科目の取捨選択:世界史や物理など、範囲が広く配点が低い科目は、思い切って学習範囲を絞るか、捨てる勇気も必要です。
満点を目指す必要はありません。合格ラインを超えるための「得点の積み上げ方」を意識し、効率的に学習を進めることが社会人合格への最短ルートです。

専門試験もある場合は、教養科目と専門科目を1科目ずつ同時並行で進めていくようにしてみて下さい。
プロと一緒に合格を目指す
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まずは、自分の受験先の試験内容を確認してみてましょう。